All that glitter is not gold.

それでも、きらきらしたものがすき。

うるう日に寄せて。~小林賢太郎初心者が「うるう」を観劇した話~

 書こう書こうと思っていた記事なのですが、うるう日にかこつけて自分を書く気にさせました。

 

下北沢・本多劇場での公演初日に小林賢太郎さんの演劇作品「うるう」を観劇してきました。

記事タイトルにも書いたように、わたしは小林賢太郎作品初心者です。どれくらいの初心者かと言うと、ラーメンズのDVDを2本と、KKTVを2~3年分観て、展覧会に1回行ったくらい。

そんなわたしに、「一緒に行かない?」と声をかけてくれた友人(ラーメンズに関しては師匠)のおかげで、今回「うるう」を観に行くことができました。

 

当日。

待ち合わせた友人の第一声は、

 

「今日C列だから」

 

…え?

えええ?

A、B、Cの、C。

さんれつめ。

 

マジかよ!!!

 

はい。ほんとのほんとにC列でした。ちかっ。

ただでさえ本多劇場というのは小さい劇場です。500人規模くらいでしょうか。

それを当てている段階で十分ありがたいのに、こんないい席で観られるなんて…!感謝感謝です。

 

初めてのジャンルの現場ということで、まずは客層をチェック。

男女比は3:7といったところでしょうか。ラーメンズの公演DVDを観たときも女性客が多い印象を受けましたが、グッズブースをはじめ会場はその多くが女性客で埋め尽くされていました。年齢層はわたしたちのような学生から主婦の方々まで様々。夫婦で来ている方も見受けられました。おしゃれなデートですこと…

 

初日は19時開演。チェリストの徳澤さんが舞台に現れた瞬間にすっと客席が静まり返ります。

そう、「うるう」は音楽や音響の多くが生演奏。足音などのメロディーでない音も、舞台の片隅で徳澤さんが奏でるのです。なんという贅沢。チェロの表現の幅にも驚かされました。

そして恥ずかしながら当日まで知らなかったのですが、この作品、小林さんのひとり芝居なのです。カーテンコールが終わって劇場をあとにするときの時刻が21時でしたから、ほぼ2時間まるまるひとり芝居、休憩もなし。前のほうの席だったのでときおり暗転した際に小林さんが水を飲んでいるのは見えましたが、それにしたってものすごい体力と集中力です。

 

ネタバレにならない範囲で(なるのかな?)ストーリーにも少し触れます。

社会とのつながりを絶ち、森の奥でひとり暮らしている38歳のヨイチ。そこにある日、少年マジルが迷い込んできたことからふたりの交流がはじまります。しかし、ヨイチはマジルの「友達になろう」という言葉に頷くことができませんでした。その理由とはいったい…

というのがおおまかなあらすじです(ほぼチラシのパクリであることに気付いた)

「大人向けの児童文学」というようなうたい文句もチラシにはありましたが、まさにそのとおりで、実際の日本の歴史も交えていてちょっとリアルなファンタジー?という印象。ラストシーンでは客席からちらほらすすり泣く声も。わたしもちょっと泣いてしまいました、切なくて。

ちなみに絵本にもなったみたいです。

 

うるうのもり

うるうのもり

 

 まじめに購入検討中。

今回の舞台は2012年の再演ということで、うるう年に合わせ本日2/29で公演終了とのこと。前回とはセリフなども若干違っていたようです。

オリンピックのネタなんかも入っていましたし、ぜひ東京オリンピックに合わせ4年後の2020年にも再演してほしいですが…DVD化してもらって何度も見られる環境にもなってほしいし…うーん。

 

でもやっぱり舞台の「ライブ感」みたいなのはすごいなと感じたのは事実。

ミュージカルなどではない「舞台」の演劇作品を観たのはわたしにとっては初めてだったのですが、やはり生の空間に勝るものはないなと感じました。

音楽と芝居と映像の演出の相乗効果が最大限に引き出されているのも小林作品の魅力のひとつではないかと思います。用語の説明も口頭でなくプロジェクションで行うことで芝居が途切れず、読書でいえば注釈を見てまた本文に戻るのと同じような感覚でした。また、狭い舞台ながらも奥行を活用し、広がりを演出していたのも素晴らしかったです。普通に考えて高校とかの講堂より絶対客席も舞台も狭いのに。

 

そして、一番の舞台の魅力を感じたのは客席の反応も取り入れて物語が進んでいくこと!

「次はこう言うだろう」と観客に思わせておいてその予想を裏切る、という笑いが小林さんの特徴のひとつだと思っているのですが、それがもう最高に素晴らしかった。

「馬」と「鹿」を融合させた動物は…あっこれぜったい「バカ」来るな、来るよな、…

小林さん「マカ」

だめだった。つぼだった。思わず前のめりで笑ってしまった。

「笑って泣ける舞台」なんて書くとものすごくありきたりになってしまうのだけど、まさに「うるう」はそれでした。小林さん自身の笑いのエッセンスと、彼の演じるヨイチの人生の悲哀、そしてマジルとの温かい交流。

 

2回目のカーテンコールで出てきた小林さんは、お辞儀をするとき片手を身体の横にもっていっていました。

それは、ちょうど劇中でマジルの手をひっぱっていたヨイチのように。

「すみません、役がなかなか抜けなくて。」

最初のカーテンコールで涙を浮かべたあとの言葉を体現しているようでした。

そしてそこに確かに8歳のマジルがいました。

見えなくても、確かにあのとき本多劇場に足を運んでいた観客たちは、しっかり彼の存在をとらえることができました。

 

今回の観劇で、小林さんの作品の魅力、そして舞台そのものの魅力を体感することができ、とにかくありがたいなと、そしてしあわせな気持ちになることができました。

小林さんの存在自体がアートなんだなと、薄っぺらい言葉ではあるかもしれませんが、彼が全身であのとき表現していた物語は、皆の中に多少なりともある経験や実感を映し出すとともに、アートの世界だったのではないかと思います。

できることならもう一度あの世界に戻りたい。観劇できてほんとうによかったです。

 

というわけですから、ぜひ、今度は、というか今年はそろそろ、

本公演も、見たいかな! (笑)

それまでに予習しておきますんで。

お二人、よろしくです。

 

という観劇記でした。